いいえ、愛するなんて言葉をわたしが使うことが既に鳥滸がましい。
腹の底も骨の髄も、ありとあらゆる場所が汚染されているに違いない。
真っ黒な夢。真っ黒な心。
愛したい、と願うことすら赦されてはいない。
だって、きたない。
ねえ、望まれないことほど、悲しいことはない。
望まれたいと思うことほど、浅ましいこともない。
いずれにせよ、喪失しか残らないのだ。
ばらばらになりそうな、其れを必死で繋ぎ止めて、辛うじて立っている。
繋ぎ止めたいのは、あなたではない。わたし自身。
どろどろのぐちゃぐちゃに融解して、それで排水溝に流れてしまえるのならば本望。
ばらばらの侭では、喉につかえたままの棘すら抜けない。
嗚咽に塗れて息を殺しても、死ねないのだ。
なんて面倒なおんな。
しねばいいのに。
しぬゆうきすらないのに。
あなたの期待に応えられなくてごめんなさい。
いいえ、期待すらされていなかったのかもしれませんね。
わたしは誰の為にも何かを為すなんてことはできない。
“為”等と口にすることすら恐れ多いのだ。
何も聞きたくない耳。何も見たくない目。
どうか、幸せで。と祈ることすら赦されてはいない。
だって、きたない。
ねえ、望まないことほど、難しいことはない。
望むと云うその行為すら、あなたをけがしてしまう。
どちらにせよ、いちばんきたないのはわたし。
信じることが、とてつもなく恐ろしい。
あなたが信用できないのではなくて、わたし自身が醜いせいだ。
裏切られるのは世界が悪いのではない。
世界に善悪なんて元より存在しないのだから。
殺して戴けるのならば本望。
どうかどうか、ぐちゃぐちゃのどろどろに溶かして。
そうしてコンクリートに詰めて地中深く埋めて下さい。
ならば、きっと、なにも汚さずにすむから。
そう、こう願うことも、浅ましくて仕方ないのです。
何も要らない。
何も要らない。
何も要らない。
言い聞かせて叱責して殴打して、
この身体を切り裂いて真っ黒な中身を全部引きずり出して、
そうすれば、少しは漂白されるのか。
結論は見えているのだ。
しねばいいのに。
ザッツオール。
なんて面倒なおんな。醜いおんな。浅ましいおんな。
生きていてごめんなさい。
しねなくてごめんなさい。
のぞんだりしてごめんなさい。
うまれてきてごめんなさい。
要らない。
と言われることは、とてもとても哀しい。
涙だって出ないくらいに哀しい。
体中の水分が総て流れ出すくらいに泣き喚いて、
このどろどろの臓物に溜った真っ黒な澱が流れ落ちてしまえばいいのに。
泣くときは静かに、ひとすじだけ。
しねばいいのに。
その通り。しねばいいのだ。
あなたの望みを叶えられなくてごめんなさい。
わたしには其の様な勇気はないのです。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
死ぬために生まれてきたのに。
若し貴方が刃をつきつけるのならば、喜んで受け入れましょう。
わたしには、其れくらいしかできないのです。
なんにもない。からっぽのわたし。
あなたにあたえることはおろか、うばうことしかない。
さわってくれなくていいよ。
あなたまでけがれるひつようはない。
だって、わたしはきたないから。
細胞のひとつひとつに原罪を抱えている。
穢れているのだ。なにもかもが。
あなたから損なうことしかできない。
からっぽでごめんなさい。
わたしなんかにわらいかけなくていいよ。
あなたのえがおはそんなにやすくはないはず。
わたしになんかはなしかけなくていいよ。
あなたのくちはそんなもののためにはない。
なんてきたない。
なんてあさましい。
なんておろか。
あいするなんて、赦されるも何も、端からないのだ。
うまれてきてごめんなさい。
あなたのまえにあらわれてごめんなさい。
あいそうなどとかんがえてごめんなさい。
どうかどうか
わすれてください。
にどとあなたのまえにはあらわれないから。
ごめんなさい。
ねえ、どうして、こんなにもあさましいのだろう。
こんなにもきたないというのに
こんなにもけがれているというのに
たったひとつだけねがえるならば、
あなたがしあわせでありますように。
それいじょうもいかもない。
わたしはきっとあなたをふこうにしてしまう。
のぞまれていないから。
のぞんではいけないから。
だいじょうぶだよ。
ないたりしないよ。
だってなみだもでないもの。
つよい、とか
よわい、とか
きれい、とか
かわいい、とか
みにくい、とか
きらい、とか
すき、とか
あいしてる、とか
ありがとう。
どんなことばでもいい。
要らない。
と言われるよりは、
嫌い。
と言われる方が何倍もうれしい。
あいしてほしい、とか
わたしをみて、とか
望んではいけないのに。
つまるところ、
失ってしまった“何か”は
損なわれたまま戻らないのだ。
ぽっかりと空いたまま
こんなにも欠落だらけの私は、
欠乏しているから、
あなたから総て奪ってしまう。
そうにちがいない。
でなくとも、
あなたを損なってしまうだろう。
愛そうとなんかして、ごめんなさい。
あなたは
わたしからすれば
まぶしすぎるのです。
だって
なけるでしょう?
わらえるでしょう?
ひつようとされているでしょう?
そして
あいせるでしょう?
ほんとうは
逃げているだけだなんて
わかってる
あいするしかくなんて
かんがえるひつようもなくて
ひつようとされてなくても
いきていけばいいし
けがれているにしても
いわなくてはわからない
そう、にげているだけ。なのだ。
すべての元凶はわたしに在って
欠落は欠損を呼び、
まんなかを失くしてしまったのだ。
ドーナツの穴のようにぽっかりと
抜け落ちた空虚に何があったのかを
わたしは思い出せやしない
あのひあのときあのばしょで
失ったのは一体なんだったのだろう
もうその影すら追えない
ねえ
ずるいよ
ずるい
なぜ貴方はわらっているの
なぜわたしはわらえないの
若し貴方がわたしを
すこしでいいからあいしてくれたなら
わたしはすくわれたのに
まえにすすもうとすればするほど
貴方の影がちらついて
わたしは竦み上がってしまう
わかっているよ
わるいのは貴方ではない
わたしがわるい
ごめんなさい。
貴方を見抜けなかった
わたしがわるいのです。
しんじてたのに、とか
すきだったのに、とか
どうして、とか
あいしてほしかった、とか
わたしをちゃんとみて、とか
そんな陳腐な言葉では言い表せられない。
けっきょく
貴方はわたしをみてたのではない
わたしにさわっていたのではない
ワタシ
を触っていたんだ。
何度洗っても
何度吐いても
何度擦っても
何度嘆いても
消えないのだから
どうしたらすすめるの?
どうしたらたおれずにすむの?
どうしたらわらえるの?
どうしたらなけるの?
ねえ
貴方は既にわたしの細胞の一部となって
内からわたしを凌辱して汚すのだ
内に巣食う貴方の遺したものが
あなたまで穢してしまうかもしれない
こわい
こわいよ
もう失いたくない
これ以上損なえば
ほんとうにばらばらにほどけてしまいそうだ
いったいどこで
掛け違えたのだろうか
いったいどこで
踏みはずしてしまったのだろうか
貴方だけがりゆうではないはず
ほんとうに、
ほんとうに、
君には
すくわれたというのに
君を穢すのがこわくて
そのあまり
にげてしまって
ごめんなさい
君に知られる前に
逃げてしまって
ごめんなさい。
わたしを救おうとしてくれたのに
其の手を握れなくてごめんなさい。
ねえ
ほんとうに
かんしゃしているんだよ。
たぶん
君がいなかったら
今わたしは
きっと
此処に立ってはいない。
だからどうか、
君は幸せに
どうかどうか
いつまでも幸せでありますように。
ねえ
それでも
やっぱり
要らないって言われるのは
いちばんつらいことだよ
君に救われたとしても
貴方を赦せたとしても
自分を浄化できたとしても
其の声。
たった4つ文字で
ひとは
こんなにも
絶望できるんだね
つもりつもって
欠落に欠損を
欠損に欠乏を
塗り重ねて
そうやって
積み上げたジェンガは
すぐに崩れてしまう。
さようなら。
ごめんなさい。
ありがとう。
おげんきで。
どうか幸せに。
おかしかったんだ
なにもかも
一度狂い始めた歯車を
元に戻す手立てが解らないだけなんだ。
狂った侭進んで、進んで、
何時かはばらばらに壊れてしまうかもしれない。
だからどうか
そんな日には
すこしでいいから
ほんのすこしでもいいから
わたしをみてください
あなたがしたこと、いったことで
わたしが奈落の底へ堕ちていったとしても
決して決して
あなたが悪いのではないのです
受け止めて
噛み砕いて
咀嚼して
消化して
吐き出せなかった
わたしが悪いのです。
だからどうか
気に病まないで
わたしが息を止めたとしても泣かないで
あなたの涙は
きっときっと
ほかのだれかのためにあるのだから
20.どうしてとなぜを繰り返して


